居間でお茶を飲みながら本を読んでいたパタントゥ伯爵が、

「ねむくなった」

 といった。夜九時半のことである。

「ねる」

 とシンプルに告げて、ぱたりと本を閉じ、居間から出ていった。

「お休みなさいませ」

 と三人のメイド―――十七歳のフィレ、十五歳のレーセ、それからパタントゥ伯爵より二つ年長の、十三歳のフォロはそろって礼をし、伯爵を見送った。

夜の不可思議

 しばらく、三人のメイドはそれぞれの仕事をした。二十分くらいたったあと、レーセが、

「そろそろね」

 とつぶやいた次の瞬間、部屋のあちこちに、霞のような、煙のような、よくわからない、ふわふわもこもこしたものが現れはじめた。

「出てきた……」

 と、十三歳のフォロが、いつも通りの無表情のまま、ぽつりといった。

 ふわふわもこもこしたものは、次第にそれぞれ、はっきりとした形と色彩を持つものになっていった。

 あるものはタキシードを着た猿になり、またあるものはぬいぐるみのような小さなライオンになり、またあるものはピンク色のおもちゃの機関車と化した。

 ほかにも、羽の生えた顔のあるお月さんだの、何人もの小人のピエロだの、手足の生えた本だの、様々な奇々怪々なものどもが、部屋の中には集結した。

 すぐに、どんちゃん騒ぎが始まった。奇妙な存在たちはそれぞれ好き勝手に遊びはじめたが、なかには三人のメイドにじゃれつくものもいた。

 小さなライオンはフォロを背に乗せ走りまわり、ピエロたちはレーセの肩や頭の上に乗ってきて、タキシードの猿はフィレにダンスを要求した。

「やれやれね」

 とレーセが苦笑した。

「でも、いい夢見てるみたいでよかったわ」

 とフィレが、猿と踊りながら、やはり苦笑していった。

少年伯爵の不思議な力

 ミツレ・パタントゥ伯爵は十一歳。一年前、伯爵位を継いだ。まだ少年の身であるから、いまは単なる学生であるが、いずれなんらかの公務に就くであろう。

 先代―――ミツレの母であったクンテル・パタントゥ伯爵夫人は人格者で、むやみな贅沢をよしとせず、貴族のものとしてはきわめて小規模な館に住まい、ミツレを育てた。

 一方、身よりのなかったフィレ、レーセ、フォロの三人を引き取り、メイドとして働かせるかたわら、学校に行かせたり、自ら勉強を教えたり、実子同然に養育した。

 三人のメイドにとって、パタントゥ家は大恩ある相手である。昨年事故により急逝した伯爵夫人が天国で安心していられるよう、誠心誠意ミツレに仕えることを決めている。

 ただ、新伯爵となったミツレには、不思議な力があった。

 寝ているとき、自らが見ている夢を、周囲に現実化させるのである。

 いったいどういう原理であるのか、なぜそんな力を持っているのかは、誰も知らない。先代にすら、わからなかった。

 もっとも別に害があるわけでもない。今夜のように、なにか得体の知れないものたちが出てきて遊び回る―――そういうことがほとんどだ。伯爵の具合が悪くて悪夢を見ているらしいときは、なにやらおどろおどろしいものが現れるが、それとて周囲の人間に襲いかかったり、そういうことをするわけではない。

 夢からやってきたものたちの遊びに、メイドたちがつきあわされる、ただそれだけのことだからだ。

お年頃な少年伯爵

 ある夜のことである。

「伯爵、最近、なんかへん」

 フォロがぽつりとそういった。伯爵はすでに、「寝る」と告げて寝室へ去っていったあとである。

「そう―――たしかに、ねえ」

 とフィレも首をかしげる。

 確かにこの頃の伯爵はちょっとおかしい。

 もとより、病弱というほどではないにしろおとなしい少年で、いつもどこか茫洋としており、なにを考えているのかわからないところがあるが、それにしても近頃は、以前といささか様子が異なる。

 日中、なにやらむずむずしたような表情をしていることが、よくある。こちらをじっと見つめているらしいので、なにか用があるのかと視線を向ければ、すぐ目をそらす。

「そりゃ坊ちゃんもお年頃だからねぇ」

 笑いながら、そういったのはレーセである。フォロは意味がわからなかったのか、「おとしごろ?」と首をかしげたが、フィレはすぐに理解する。

「そういう―――ことなのかしらね。どうしたものかしら」

「別に、わたしたちがどうこうする問題じゃないでしょ? このお年頃はこんなもんなんだって思って放っておけばいい」

「出てきた」

 とフォロがいった。

 周囲から、例によって、ふわふわもこもこしたものが発生しはじめた。

 それらが色彩を持ち、形をとり―――三人のメイドは愕然とした。フィレは真っ赤になり、フォロはいつもは半眼にしている両目を丸く見開き、レーセはちょっと紅くなりつつも引きつった笑みを浮かべて、

「これはこれは」

 といった。

突如現れた夢のペニスに、手コキとフェラ

 現れたのはいくつもの、勃起した男性器だった。

 男性器―――のみだ。

 ふくれあがった亀頭、反り返った竿、その根本には袋もあるが、本来それがぶら下がっているはずの肉体はない。

 大きさも大小様々なペニスたちは、宙をふわふわ漂うように近づいてきて、三人のメイドをとりかこんだ。

「これ、おちんちん?」

 とフォロが、手近なペニスの一つに手を伸ばそうとしたので、フィレは慌ててその手を引っ込めさせ、

「ここ、こりゅ、これはいったい」

 舌のまわらぬ口調でいった。

 レーセが少しだけ、熱のこもったため息をついた。

「ちょうどさっきいってたじゃない。坊ちゃんもお年頃なんだって。自分でもよくわからない悶々としたものが、夢に出てるんじゃないかな」

「どど、どうすれば」

「だから、これは坊ちゃんがむらむらしちゃってるからこうなってるわけで」

 レーセは近くにあったペニスのひとつに手を添えて、

「すっきりさせてあげれば、消えるんじゃないかな」

 軽く握り、しこしことしごきはじめた。

「レ、レーセ」

「あ、なにか出てきた。先走りってやつかな」

 レーセのいうとおり、ペニスの先端からはなにやら透明な液が浮き出していた。

 フィレは真っ赤になったまま、呆然となりゆきを見まもるのみである。フォロもまた興奮してきたのか、表情は無表情なまま、頬を上気させていた。

「ん、せっかく、だから」

 とレーセがいって、ほかのふたりは仰天した。レーセが、手で愛撫していたペニスに顔を近づけ、それを口にくわえたからだった。

「んぅ…ん、ふぁ…」

 口内に含んだ亀頭へ、舌をからめるようにして舐めまわす。

 一度口から出し、亀頭を指でくにくに揉みつつ、裏筋を舐める。

 玉袋もちろちろ舐め、それからまた陰茎を口にくわえてリズミカルに顔を振ってやると、突然ペニスが跳ねまわり、生ぬるい液が、レーセの口内に発射された。

「きゃっ」

 と声をあげ、顔を離したレーセの顔に、髪にも、精液はかかった。

 夢の産物であるためか、その量は尋常ではなかったが、知識はあっても実際の経験がない少女たちにはわからない。一度の射精で精液まみれにされてしまったレーセは、口内に残った精液を手のひらへと吐き出して、

「うん……もぅ」

 といった。

「でも、出してあげられたし、これで消えるかなあ」

 三人は周囲を見まわした。ペニスの群れは、依然として彼女らを包囲したままである。

「消えない、かあ」

 とレーセがため息混じりにいった。