
いにしえの女王
エジプトで地震があって、砂漠の一部が陥没し、そこから、これまでにない、太古のピラミッドが発見された。
内部はきわめてシンプルで、入り口から入ってすぐの霊安室に、当時の女王と思われるミイラの入った柩が、安置されているのみだった。
調査後、ミイラはその柩とともに運び出され、世界中の博物館に展示された。半年くらいのち、トムの住む街の博物館にも、ミイラの女王はやってきた。
魅了するミイラの女王
歴史好きなトムは、十三才の誕生日に、両親に連れられてミイラを見に行った。ガラス張りの展示ルームの中、柩のふたは開けられ、包帯でぐるぐるに巻かれて横たわるその遺体は、観客のもとにさらされていた。
トムはガラス越しに、食い入るようにミイラをながめつづけた。約十五分後、呆れた両親が館内のカフェに行ってしまったあともずっと見つめつづけた。
なんとも神秘的なふうに―――トムには思えた。
ぱっと見では、ミイラは古びた布に巻かれたなにかに過ぎず、柩にしたって、うっすらとなにかの紋様の跡らしきものが浮いているだけの、きわめて地味なものに過ぎないのであるが、えもいわれぬ魅力を、少なくともトムは感じた。
わかるやつにしかわからない―――これはそういう感覚なのだとトムは思った。
二時間近く、見つめつづけただろうか。―――不意にトムはどきりとした。
ミイラから、見つめ返されているように思えたのである。―――ちょうど目があるであろうあたり、布と布の狭間に見えた、赤い光。どこか朦朧とした気分になったトムに、そのときやってきた母がいった。
「いいかげんにしなさい。もう帰るわよ」
そうしてトムは家に帰った。
夜になった。
十一時、床についていたトムはぱちりと目を覚ました。
どうするべきなのかはわかっていた。
なぜわかるのか、そしてなんのためにそうしなくてはならないのかはわからなかったが、ともかくわかっていた。
両親に気付かれぬよう、こっそりと、パジャマのまま、トムは家を出た。
向かった先は博物館であった。会わなくては、と思った。あのミイラに、女王に。
博物館への侵入は容易であった。入り口の自動ドアは開いていたし、入ったところで警備システムがサイレンを鳴らすこともなかった。トムはミイラの展示場へと向かった。
ガラス張りの展示ルーム―――その内部に入る唯一のドアも開いていて、なかには数十人の男性が、すでに柩を囲んでいた。
おとなの男性もいれば老人も、トムとおなじくらい若い少年の姿もあった。
みんな、トム同様に、ミイラのことが「わかった」連中だ。警備システムが無効になっていた理由も、トムは理解した。青い制服を着た警備員の姿も、そこにはある。
なにもいわず―――なにをいう必要もなく―――トムもまた柩を囲む一団のなかに加わった。
たまたま、柩のなかのミイラが足を向けている、その正面に立てた。やがて柩から―――わずかな振動のためだろう―――微かな黄色い粉がこぼれはじめた。
ゆっくりと、ミイラの女王は身を起こした。
女王による二度のフェラ。渇ききった口で、そして潤んだ口で
トムも含めた男性たちの顔には、恍惚とした喜色が浮いた。
女王はどこまでも緩慢に、しかし優雅な動作で柩から出ると、トムのほうを見た。
「おまえね。おまえがいちばん、わたしを見ていた」
そんな意味のことを、女王はいった。まったくきいたことのない言語である。それなのに、なにをいっているのかは、はっきり分かった。
「褒美じゃ。最初はおまえにしてやる。お脱ぎ」
「は、はい」
歓喜のあまり、いささか慌て、もたつきながら、トムは下着ごと、パジャマの下を脱ぎ捨てた。
半年ほどまえ精通を迎えたばかりのペニスは、すでに膨張して、上向いていた。
一歩、ミイラがトムのほうへ進んだ。
ミイラを包む布の一部―――口元のあたりがずり落ち、ひからびた黄色い肌とくちびるが見えた。
女王はトムのまえまで来るとひざまずき、その布に包まれた両手をペニスの根本にそえ、黄色い粉をこぼしながらくちびるを開き、少年の男根を口にくわえた。
「ああ、あああ」
トムは声をあげた。
ペニスをおそった、あまりに異様な快感のためであった。
女王の口内に、唾液といえるようなものはまるでなく、その舌もかたく乾ききって、ざらざらごつごつしているのみだった。
そんなもので舐めまわされたとて、感じるのは痛みだけであるというのに、なにか超常的な力で搾り取られるかのように、トムの射精感は急激に高まっていった。
「ああ、出ます、出ます」
ペニスがびくびく跳ねまわり、普段自分でするときの数倍の量の精液が、女王の口内へと発射された。
女王は、ぱらぱらと粉を落としながらペニスに吸いつき、精液を一滴ももらさず口に受けとめ、ごくりと呑んだ。
はらりと、女王を包んでいた布の大半が床へ落ちた。
トムは一度の吸精により、変貌を遂げた女王の姿を見おろした。
左目の周囲はまだ茶色い土くれのように乾いていたが、顔の大部分は生きた人間と変わらぬようになり、褐色の美貌も、肩の辺りまで伸びた黒髪も、見事に復活していた。
年頃は―――意外に若い。十五、六であろう。
体もまた頭部と同様、あちこちに大きなしみのような乾きが残っているものの、そのほとんどが生きかえっている。
右の乳房はまだしおれていたが、左の乳房は少女特有の張りとやわらかさを同時にそなえ、ふるふると揺れていた。
女王が、妖しい笑みを浮かべた。
「もう一度」
再びペニスにしゃぶりつかれ、トムは悲鳴をあげた。
先ほどとは一転して、女王の口内は潤みきっていた。
あたたかな唾液は異常なほど分泌され、弾力を持った舌はじゅぶじゅぶと音を立てながらトムのペニスを舐めまわした。
「ああ、ああああ!」
「おまえたちも、はじめよ。わたしにおかけ」
女王がペニスを口から出して、周囲の男たちに命じた。
精液のシャワーを浴びる女王。男たちのすべてを食い尽くす
男たちは喜悦をあらわにし、服の下を脱ぎ捨てた。
すでにぎんぎんに勃起した性器を、男たちが自らしごきだすのを確認してから、女王はあらためてトムのペニスにくらいついた。
激しく顔を振られ、トムの限界はたちまちにおとずれた。
「ああ、いき、いきます、ああああ!」
さっきに負けぬ、いやさっきよりさらに多くの精液が、女王の口へとそそぎ込まれた。
それと同時に―――女王に魅了されたもの同士、一種のシンクロニシティが働いたのかもしれない―――ほかの男たちもいっせいに射精し、女王の身へと白い雨を浴びせかけた。
女王が、射精を終えたトムのペニスから口を離し、精液を呑んだ。
その褐色の肌にかけられた白濁液は、未だ乾いた部分に流れつくや、土にまかれた水のように吸い込まれた。女王の乾いた部分が、みるみる生気を取りもどしてゆくさまを、トムは目にした。
「まだじゃ」
と、しかし女王はいった。
「まだ足りぬ」
とんと、女王がトムの胸を押した。
ごく軽い力であったが、トムは仰向けに転倒した。
女王はトムの腰の上へ膝立ちになると、自らの指をもって自らの秘所を開いてみせた。肌が褐色である分、ヴァギナのピンク色はよりあざやかに見えた。
「おまえたちの精、残らずもらうぞ」
いいながらトムのペニスを秘所へとそえ、いいおえると同時に腰を落とした。
「ああ、ああ……!」
歓喜のあまり、トムは涙すら流し、泣きながらあえいだ。
他の男たちも、女王の周囲へとより近づいてきた。
自分へと向けられるペニスのひとつに、女王はしゃぶりつき、あいた左右の手で別の二本のペニスをしごいた。
女王の口淫や手淫にあずかれなかった者どもが、自分で性器をしごこうとすると、床に落ちていた包帯が、するするとひとりでに近づいてきて、彼らのペニスに巻きついた。
それによって未知の快感を得たのか、男たちは「おう、おう」とあえいだ。
女王の腰は休みなく上下しつづけた。
トムは何度も女王のなかへと射精した。
それなのにペニスが萎える様子はまったくなく、それは他の男たちも同様だった。
フェラチオされているペニスも、手でしごかれているペニスも、包帯でしごかれているペニスも、際限がないかのように射精しつづけ、しかも勃起したままだった。
「ああ、ああ、ああ!」
トムはあえぎつづけた。
おまえたちの精をすべてもらうと、女王はいった。
この狂宴がおわったあと、自分たちは生命を残らず吸い尽くされた骸になるのであろうと、トムには分かっていた。
それでもあるのは喜びのみだった。偉大なる女王にすべてを捧げる喜び。
「ああ、ああ、んぷぁ、はは、あはぁっ!」
女王もまた、声をあげ、哄笑していた。
それこそが―――女王の喜びこそが、トムたちにとって唯一の幸福であった。それが彼らのすべてであった。
狂宴の結末
翌日、博物館のミイラ展示室の中で、何人もの男性のミイラ化した死体が発見された。
そして、もとよりそこにいたはずの女王のミイラは、どこにもいなくなっていた。